「〇〇市役所の健康保険課です。以前お送りした『医療費の過払い金(還付金)』の緑色の封筒はお手元に届いていますでしょうか?」
「実は、約3万8,000円の払い戻し期限が本日までとなっております。窓口は大変混み合っておりますが、今ならお近くのATMでお受け取りの手続きが可能です」
ある平日の昼下がり、自宅の固定電話にかかってきた一本の電話。
役所を名乗る丁寧で物腰の柔らかい男性の声に、あなたなら疑いを持つことができるでしょうか?
「お金を受け取る手続き」をしているつもりが、犯人の指示通りに画面を押していくうちに、自分自身の貯金を犯人の口座へ全額振り込んでしまう――。
これこそが、いま全国のシニア世代を狙って猛威を振るい続けている「還付金詐欺」の恐ろしい罠です。
警察庁・SOS47特殊詐欺対策でも最優先の警戒が呼びかけられているこの手口。
今回は、ごく普通の主婦が約100万円を一瞬で騙し取られた生々しい体験談とともに、犯人が操る巧妙な心理トラップと絶対に騙されない防犯ルールを徹底解説します。
体験談:近所のスーパーATMで「受取手続き」をしたはずの女性の悲劇
関東近郊の住宅街に夫と暮らす良子さん(仮名・68歳)。
その日は午前中の家事を終え、リビングでお茶を飲みながらテレビを見ていました。午後2時過ぎ、リビングの固定電話が鳴り響きます。
電話に出ると、落ち着いたトーンの男性の声が聞こえてきました。
「3万8,000円が戻ってくるはずなのに、自分の不注意で消えてしまう」――。
焦った良子さんは思わず「どうすればいいでしょうか?」と尋ねてしまいました。犯人は待ってましたとばかりに、こう続けます。
「市役所の窓口はすでに受付終了しておりますが、本日中であれば、銀行の提携ATMから直接ご自身の口座へ還付金を振り込む特別手続きが可能です。携帯電話とキャッシュカードを持って、今すぐお近くの無人ATMへ向かっていただけますか? 到着されましたら、操作手順をご案内する専用ダイヤルへお電話ください」
ATMコーナーで始まった「悪魔の遠隔操作」
良子さんは財布と携帯電話を握りしめ、小走りで近所のスーパーの一角にあるATMコーナーへ向かいました。
指示された番号に電話をかけると、「金融機関サポート窓口のヤマダ」と名乗る男が出ました。
周囲の雑音の中、男は早口でテキパキと指示を出してきます。
男:「ATMの画面の前に立たれましたか? まずカードを入れて残高照会を押してください。……はい、口座が認識されました。では、画面の『お振込み』というボタンを押してください」
良子さん:「えっ? お振込み? 私、お金を受け取るほうなんですが……」
男:「ご安心ください! これは市役所の送金サーバーから良子様の口座へ『振り込ませるためのデータ回線接続ボタン』なんです。システムの仕様上、そう表示されるだけですので、そのまま押してください」
専門用語をまくし立てられ、「そういうものなのか」と納得してしまった良子さん。
男の指示はさらに加速します。
「次に、受取認証を行う金融機関コードとして『〇〇銀行』を選び、支店名を押してください」
「続いて、受取人データとして良子様専用の『還付登録コード』を入力していただきます」
男:「数字のボタンで、0・9・8・7・6・5 と入力し、確認を押してください」
良子さんは言われるがままに「098765」とテンキーを叩きました。
電話口の男は「最後に『確認』ボタンを長押ししてください。これで手続き完了です!」と告げました。
排出された利用明細票……手元に残ったのは「残高1,200円」
ピーという電子音とともに、カードと1枚の利用明細票が吐き出されました。
「これで還付金が入ったのかしら」と明細票に目を落とした瞬間、良子さんの血の気がサーッと引きました。
【ATMご利用明細票】
お取引内容:お振込み
振込先:〇〇銀行 △△支店 カ)トクメイ口座
お振込金額:¥987,650
お取扱手数料:¥330
お取扱後残高:¥1,240
良子さんが入力させられた「還付登録コード(098765)」は、コード番号などではなく、「振込金額(98万7,650円)」だったのです!
「もしもし!? 私のお金が誰かに振り込まれています! これどういうことですか!?」
狂乱状態でスマホに向かって叫ぶ良子さん。しかし、耳元から聞こえてきたのは――
「ツーツーツー……」という無機質な切断音だけでした。
日常生活のへそくりと年金の入った口座から、100万円近くがわずか数分で蒸発。
スーパーの賑やかな特売案内のアナウンスが響く中、良子さんは膝から崩れ落ち、ただ震えることしかできませんでした。
なぜ騙される?犯人が仕掛ける「3つの心理トラップ」
「自分ならATMで振り込みボタンを押すはずがない」と思うかもしれません。
しかし、警察庁の分析によると、犯人は被害者の思考を完全に麻痺させる緻密な心理誘導を仕掛けています。
| 心理トラップ | 犯人の手口・セリフ | 被害者の心理状態 |
|---|---|---|
| ① 見落としの罪悪感と「期限切れ」の焦り | 「以前青い封筒を送りましたが…」「本日17時が最終締切です」 | 「見落とした自分が悪い」「今日中になんとかしなきゃ」とパニックになる |
| ② 「お金がもらえる」油断 | 「医療費の過払い金が戻ります」「年金の未払い分です」 | トラブル解決ではなく「臨時収入」の話なので、警戒心のガードが下がる |
| ③ 専門用語による認知的過負荷 | 「データ回線接続のため『振込』を押す」「受取コードを入力して」 | 電話で急かされ、画面を熟読して疑う精神的余裕を完全に奪われる |
特に巧妙なのが、「無人ATM(コンビニやスーパー)を指定する」という点です。
銀行の有人店舗では行員や警備員に声をかけられて詐欺が発覚するリスクが高いため、犯人はあえて人目が少なくインターホンもない無人コーナーへ被害者を誘導します。
警察庁SOS47が教える「絶対知っておくべき鉄則」
還付金詐欺の被害を防ぐために、警察庁・SOS47特設ページが最も強調している事実があります。
【最大の鉄則】
ATMでお金が返ってくることは、絶対にありません。市区町村の役所、税務署、年金事務所、社会保険庁などの公的機関が、還付金や給付金の受け取りのために市民へATMの操作を指示することは100%あり得ません。
公的機関からの還付金は、必ず事前に書面で手続きを行い、指定した銀行口座へ自動で振り込まれます。「ATMへ行って受け取る」という制度自体、日本の金融システムには存在しないのです。
親と資産を守る!今すぐできる「5大防犯対策」
還付金詐欺の電話は、主に平日の日中、高齢者が一人で在宅している時間を狙ってかかってきます。
離れて暮らす親御さんやご自身を守るため、今すぐ以下の対策を実施してください。
- 固定電話を「常に留守番電話設定」にする
犯人は声が録音されることを極度に嫌います。在宅中であっても留守電にしておき、相手が名乗って本当に用件があることを確認してから折り返すだけで、被害の99%を防げます。 - 「国際電話の発着信休止」を申し込む
近年、警察の追跡を逃れるため「+1(北米)」や「+44(英国)」などの国際電話番号からかかってくる詐欺電話が急増しています。海外と通話しない家庭は、電話会社へ申し込んで国際電話を無料で休止できます。 - 携帯電話の「知らない番号を着信拒否」設定
スマートフォンの設定で、連絡先に登録のない番号からの着信を通知しない設定にしておきます。 - ATMの「振込限度額」を低く設定しておく
万が一騙されてATMに向かってしまっても、1日の振込限度額を「10万円」や「0円」に引き下げておくことで、被害額を最小限に食い止めることができます。 - 「ATM・還付金」の言葉が出たら即座に電話を切る
相手がどれほど公的機関を名乗っても、その場ですぐ電話を切り、警察相談専用電話(#9110)または役所の公式代表番号へ確認してください。
もし怪しい電話がかかってきたら?公的相談窓口
📞 警察相談専用電話:#9110(全国共通・ダイヤル回線からは最寄りの警察署へ)
📞 消費者ホットライン:188(局番なし・泣き寝入りは「いやや」)
📞 匿名通報ダイヤル:0120-924-839(特殊詐欺グループや闇バイトの情報提供)
「お金を振り込んでしまったかもしれない」と気づいた場合は、1秒でも早く警察(110番)と振込先の金融機関へ連絡してください。「振り込め詐欺救済法」に基づき、犯人の口座を緊急凍結できれば、被害金の一部が戻ってくる可能性があります。
まとめ:「自分は騙されない」と思っている人ほど危ない
還付金詐欺の被害者の多くが、事件後にこう語ります。
「テレビのニュースで手口は知っていた。でも、実際に電話がかかってきて『今日まで』と言われた瞬間、頭が真っ白になってしまった」
巧妙に訓練された犯罪グループは、言葉巧みに人間の心理の隙を突いてきます。
防犯の基本は、「犯人の電話にそもそも出ないこと」、そして「ATMでお金が戻ることは絶対にない」と肝に銘じておくことです。
ぜひこの記事をご両親やご家族と共有し、「還付金の電話がかかってきたら絶対に一人でATMに行かない」というルールを家庭内で再確認してください!